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限界法律クラスタ

【判例】歌ってみた動画を投稿したら訴えられた件

Youtubeニコニコ動画を見てみると多いですよね、歌ってみた動画。歌ってみた・ボカロP畑の出身者が人気アーティストとしてメジャーデビューするのも目にします。そんな歌ってみた動画、著作権に関する問題はないのでしょうか。結論から言うと問題はあるわけで、今回取り上げるのは歌ってみた動画の投稿者がカラオケ業者から訴えられ敗訴した事件になります。

 

 

○事案の概要

事案自体はシンプルで、ごく簡単に説明すると、被告はカラオケ店で歌を歌った動画をYouTubeに投稿しましたが、それに対してカラオケ業者たる原告が本件動画の送信可能化の差止めと消去を求めて提訴した、というかたちになります。

第2 事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,被告が原告の作成したカラオケ音源を用いてカラオケ歌唱を行っている様子を自ら動画撮影した動画の電磁的記録をインターネット上の動画共有サイトにアップロードした行為が,原告の上記カラオケ音源に係る送信可能化権著作権法96条の2)の侵害に当たると主張して,同法112条1項及び2項に基づく上記動画の送信可能化の差止め及びその電磁的記録の消去を求める事案である。

1 原告は,請求原因事実として次のとおり主張した。
原告は,業務用通信カラオケ機器の製造販売等を業とする株式会社であり,業務用通信カラオケ機器「DAM」シリーズの販売を行っている。
原告は,平成28年8月17日に発売された女性ボーカルグループ「Li
ttle Glee Monster」のCDシングル「私らしく生きてみ
たい/君のようになりたい」に含まれる楽曲「私らしく生きてみたい」のカラオケ用音源(以下「本件DAM音源」という。)を作成した。原告は本件DAM音源につきその音を最初に固定したレコード製作者として送信可能化権著作権法96条の2)を有する。
被告は,カラオケ店舗において,DAMの端末を利用して,上記楽曲のカ
ラオケ歌唱を行い,その際に自身が歌唱する様子を動画撮影し,本件DAM音源の音が記録された動画(以下「本件動画」という。)を同年9月7日にインターネット上の動画共有サイトである「YouTube」にアップロードした(以下,この行為を「本件行為」という。)。
本件行為は,原告の本件DAM音源に係る送信可能化権を侵害する行為に
当たる。なお,本件動画は既に「YouTube」上から削除されているものの,被告が他の動画共有サービスを用いるなどして本件動画の電磁的記録を送信可能化する可能性がある。また,被告による原告の送信可能化権侵害を防ぐためには,被告が管理する本件動画の電磁的記録を消去する必要がある。
よって,原告は被告に対して本件動画の送信可能化の差止め及びその電磁
的記録の記録媒体からの消去を求める。

2 被告は,陳述したとみなされた答弁書において,次のとおり主張した。
被告は自主的に本件動画を「YouTube」上から削除した。そもそも,本件動画は主として被告自身の歌唱の様子を撮影したものであって,原告の利益を明確に侵害したとはいい難いものであるから,差止請求等の訴訟を提起することは適切でなく,原告は被告に連絡をとって被告が自主的に削除する機会を与えるべきであった。

 

 

関係条文

さて、カラオケ業者は何の権利があってこのような訴訟を提起することができるのでしょうか。その疑問に答えてくれるのは著作権法96条の2です。

送信可能化権
第九十六条の二 レコード製作者は、そのレコードを送信可能化する権利を専有する。

疑問に答えてくれるとは言ったものの、これだけじゃあなんのこっちゃわかりませんね。定義規定を参照しながらもう少しブレイクダウンしていきましょう。

 

まずは「レコード」について。

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

(略)

五 レコード 蓄音機用音盤、録音テープその他の物に音を固定したもの(音をもつぱら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)をいう。
六 レコード製作者 レコードに固定されている音を最初に固定した者をいう。

 普通「レコード」と聞くと古めかしいディスク・レコードを想像してしまいます。しかし著作権法2条1項5項によると、ここでいう「レコード」には、「蓄音機用音盤」だけでなく「録音テープその他の物」までも*1が含まれることになります。具体的にはテープ、CD、ハードディスクなどが「レコード」にあたり、本事例ではカラオケ音源が記録されている機器が「レコード」に該当すると考えられます。

 

続いて「送信可能化」について。

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

(略)

九の五 送信可能化 次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。
イ 公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号及び第四十七条の五第一項第一号において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。以下同じ。)の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。
ロ その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線、自動公衆送信装置の始動、送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと。

 だらだらと長い定義ですが、要約すると、自動公衆送信装置にデータを記録したり、データが入った自動公衆送信装置を回線に接続したりして、自動公衆送信できる状態にすることが「送信可能化」である、ということです。またややこしい単語が出てきましたが、「自動公衆送信」は以下のような意味となっています。

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

(略)

七の二 公衆送信 公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うことをいう。

(略)

九の四 自動公衆送信 公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)をいう。

 「公衆送信」とは「公衆によつて直接受信されることを目的」とした電子通信の送信であり、具体的にはラジオやテレビ、ネット放送、動画配信サイトでの配信などが含まれます。そして「自動公衆送信」は「公衆送信」のうち利用者の求めに応じて自動的に(=人間による操作なしに)行われるものをいいます。オンデマンド放送やYouTubeなどでの配信は「自動公衆送信」に該当します。また「自動公衆送信装置」は「入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置」であり、サーバーなどを指します。

そんな訳で長くなってしまいましたが、「送信可能化」とは、サーバーにデータをアップロードすることなどにより、動画配信サイト等で情報の送受信が可能な状態にすることをいいます。

 

ここまでの話をまとめると次のようになります。

  • 送信可能化権は、レコード製作者がそのレコードを送信可能化する権利
  • 「レコード」とは、蓄音機用音盤、録音テープその他の物に音を固定したもの(テープ、CD、ハードディスクなど)
  • 「送信可能化」とは、サーバーにデータをアップロードすることなどにより、動画配信サイト等で情報の送受信が可能な状態にすること

これを本事例に即して言うと、カラオケ音源(=レコード)をYouTubeに投稿する(=送信可能化)というカラオケ事業者(=レコード製作者)の権利、が送信可能化権であるということになります。

そして被告の歌ってみた動画によってこの権利が侵害されたため、原告は訴えを提起した、というわけです。

 

 

裁判所の判断

やっとこさ裁判所の判断までたどり着きましたが、結論としては原告敗訴。

原告は本件動画の送信可能化を禁じられ、本件動画の消去も義務付けられることとなりました。

第3 当裁判所の判断
1 証拠(甲1~5)及び弁論の全趣旨によれば,原告主張の請求原因事実を全て認めることができる。そうすると,本件行為は本件DAM音源に係る原告の送信可能化権の侵害に当たるから,原告は被告に対し本件動画の送信可能化の差止め及びその電磁的記録の記録媒体からの消去を求めることができる。
これに対し,被告は上記のとおり主張するが,本件動画が「YouTube」上から現時点では削除されているとしても,本件の証拠上,本件動画の電磁的記録が被告の有する記録媒体から消去されたことはうかがわれないから,原告の上記請求につき差止め等の必要性を欠くとみることは相当でない。
2 以上によれば,原告の請求はいずれも理由があるから,これらを認容することとし,主文第2項についての仮執行宣言は相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。

主 文
1 被告は,別紙動画目録記載の動画を送信可能化してはならない。
2 被告は,別紙動画目録記載の動画の電磁的記録を,同記録が入力
されている被告の占有に係るハードディスクその他の記録媒体から
消去せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

 

所感

本判決の内容は妥当なものでしょう。特に言うこともないです。

YouTubeニコニコ動画を見るとカラオケ店での歌ってみた動画はたくさんありますが、それらについても、もし訴えられた場合は同じ結末になるでしょう。

 

ところで一つ疑問に感じるのは、何故原告は本件に限って訴訟を提起したのかという点です。歌ってみた動画が跋扈していることからも分かるように、このような動画に対して裁判をしてまで争うというようなことはそうそうありません。訴訟にかかるコストの割にリターンがあまりに小さいからです。

にも関わらず、なぜ今回はこのような事態になったのでしょうか。私見としては、見せしめとして起訴することで違法な動画投稿に対する威嚇効果を狙ったのではないか、本件被告の行為が歌ってみたとは名ばかりのカラオケ音源アップロード動画でありなお且つその数も多かったのではないか、などの理由が考えられます。

本件動画はもはや見ることは叶わないので真実は闇の中ですが、原告の思惑が気になって仕方ありません。

 

 

<参考文献等>(最終アクセスは全て2019年8月8日)

・「YouTubeへのカラオケ投稿って本当に法的上はアウトなの?」"シェアしたくなる法律相談所", 2017年5月16日, <https://lmedia.jp/2017/05/16/79197/>

・「「カラオケ歌ってみた動画」と著作隣接権」"みんなの著検", <https://www.biz-shikaku.com/mincho/topic/1561>

・「コラム・著作権法違反にならないカラオケ動画(「歌ってみた」等)について(youtubeへの動画アップロードが著作権法違反とされた裁判例(東京地裁H28.12.20判決)をもとに)」"舞鶴法律事務所", 2018年4月24日, <http://maizuru-lawoffice.com/copyright-law-and-karaoke/>

東京地裁平成28年12月20日判決<http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/410/086410_hanrei.pdf>

・半田正夫・松田政行(2009)「著作権法コンメンタール1」勁草書房

・半田正夫・松田政行(2009)「著作権法コンメンタール3」勁草書房

*1:厳密には音が固定された有体物そのものではなく、有体物に音が固定されているという抽象的存在を指す。「固定」とは、音の媒体たる有体物をもって、音を機械的に再生することができる状態にすることを意味する。

【判例】ときめきメモリアル事件

著作権について勉強したことのある人の中には、この判例が一番印象に残っているという人もいるのではないでしょうか。無愛想な教科書の中に突如現れる「ときめきメモリアル」という字面のインパクト。ギャルゲープレイヤーは思わずニヤリとしたり、こそばゆい思いをしたりしたことでしょう。

今日はそんなときめきメモリアル事件についてです。この事件では、メモリーカードの改造によってゲームソフトのストーリーを改変することが、同一性保持権侵害にあたると判断されました。

 

事案の概要

  • ときめきメモリアル」(以下「本件ゲームソフト」)は、プレイヤーが架空の高校の生徒となり、設定された中からあこがれの女生徒を選択し、卒業式の当日に愛の告白を受けることを目指して、3年間の勉学や出来事等を通してそれにふさわしい能力を備えるための努力を積み重ねるという内容の恋愛シミュレーションゲームである。
  • 本件ゲームソフトでは、主人公について「体調」「理系」といった9種類の能力値と女生徒の主人公に対する評価を示す「ときめき度」などの3種類の値の初期値が設定されている。あらかじめ設定されたコマンドをプレイヤーが選択すると、パラメータが上下するように設定されており、そのパラメータの数値いかんにより女生徒から愛の告白を受けられるかが決定される。本件ゲームソフトでは、初期設定の主人公の能力値からスタートし、目標に向けて能力を向上させていくことが中核となるストーリーであり、その過程で主人公の能力値の達成度に応じて他の女生徒との出会いがあるという設定となっており、そのストーリーは一定の条件下に一度の範囲内で展開されるものである。
  • 被告は、平成7年12月頃から、「X―TERMINATOR PS版 第2号 ときメモスペシャル」という商品名のメモリーカード(以下「本件メモリーカード」)を輸入し、日本国内で販売した。
  • 本件メモリーカードのブロック1ないし11のデータを使用すると、入学直後の時点でパラメータのほとんどが極めて高い数値となり、入学当初から本来は登場し得ない女生徒が登場する。またブロック12または13のデータを使用すると、ゲームスタート時点が卒業間近の時点に飛び、その時点でストレス以外のすべての表パラメータの数値が本来ならばあり得ない高数値に置き換えられるなどされ、必ずあこがれの女生徒から愛の告白を受けることができる。

ときめきメモリアル」の説明については、よくある恋愛シミュレーションゲーム、といったところでしょうか。コマンドを選択して日々を過ごし、女性キャラとの好感度を上げていくという感じで。(私はラブプラス以外のギャルゲーをプレイしたことがないので合ってるか分かりませんが...)

被告が販売していたセーブデータを使うと、本来より早いタイミングで女性キャラが出てきたり、問答無用で狙いのキャラと付き合うことができたりするようです。データ弄り素人の意見としては、まあこちらもよくありそうな改造、といった印象です。

 

裁判所の判断

さて上記のような被告の行為に対し、原告は、被告が原告の同一性保持権を侵害しているとして損害賠償を請求しました。上告審判決は以下のようになります。

※上告人=被告(本件メモリーカードを販売した方)

 被上告人=原告(「ときめきメモリアル」の著作者人格権者)

本件ゲームソフトの影像は,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものとして,著作権法2条1項1号にいう著作物ということができるものであるところ,【要旨1】前記事実関係の下においては,本件メモリーカードの使用は,本件ゲームソフトを改変し,被上告人の有する同一性保持権を侵害するものと解するのが相当である。けだし,本件ゲームソフトにおけるパラメータは,それによって主人公の人物像を表現するものであり,その変化に応じてストーリーが展開されるものであるところ,本件メモリーカードの使用によって,本件ゲームソフトにおいて設定されたパラメータによって表現され
る主人公の人物像が改変されるとともに,その結果,本件ゲームソフトのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され,ストーリーの改変をもたらすことになるからである。

本件メモリーカードは,前記のとおり,その使用によって,本件ゲームソフトについて同一性保持権を侵害するものであるところ,前記認定事実によれば,上告人は,専ら本件ゲームソフトの改変のみを目的とする本件メモリーカードを輸入,販売し,多数の者が現実に本件メモリーカードを購入したものである。そうである以上,上告人は,現実に本件メモリーカードを使用する者がいることを予期してこれを流通に置いたものということができ,他方,前記事実によれば,本件メモリーカードを購入した者が現実にこれを使用したものと推認することができる。そうすると,本件メモリーカードの使用により本件ゲームソフトの同一性保持権が侵害されたものということができ,上告人の前記行為がなければ,本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害が生じることはなかったのである。したがって,【要旨2】専ら本件ゲームソフトの改変のみを目的とする本件メモリーカードを輸入,販売し,他人の使用を意図して流通に置いた上告人は,他人の使用による本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして,被上告人に対し,不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解するのが相当である。

以上のように、 上告人による同一性保持権侵害を認める判決が下されました。前半部分では、上告人の行為が同一性保持権侵害にあたるか否かについて判断しています。

まず注目したいのが「ゲームソフトの影像」という表現。本事案では、上告人はゲームのプログラムを改変している訳ではありませんし、キャラを裸にするといったような個々の映像に対する改変があった訳でもありません。したがって、プログラムや画像に対する同一性保持権侵害は認められ得ないことになります。しかし本判決では同一性保持権による保護範囲を「ゲームソフトの影像」とすることによって、本件ゲームソフトのゲーム展開やゲームの内容全体に対する侵害行為を認めています。

続いて着目するのは「本件ゲームソフトのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され,ストーリーの改変をもたらすことになるとの文章。これが示唆するのは、第三者によるゲームソフトの改変について、すべての場合に同一性保持権侵害が肯定されるわけではない、ということです。調査官解説でも「ゲームソフトのストーリーが一定の条件下に一定の範囲内で展開される物とは言えない場合や、被告が提供したメモリーカードを使用してもゲームソフトが予定しているストーリーの範囲内であり、表現態様が許容された一定の範囲内である場合などには、本判決とは異なる結論になる可能性があろう」と述べられています。この点につき、三国志3事件*1では、歴史シミュレーションゲームでありゲーム展開の許容される幅が広いと判断されたことで、同一性保持権侵害が否定されました。

なお「本来予定された範囲」について、本件ゲームソフトではユーザーによる入力操作があって初めてゲームが進行し、その進行の仕方もさまざまであるという特殊性に鑑み、「本来予定された範囲」を観念することが可能なのか、という疑問が呈されています。さらに、本件ゲームソフトにはいわゆる裏技*2が存在していたことから、「本来予定された範囲」を越えていないのではないか、という意見が投げかけられています。

 

さて、後半部分では、侵害行為の主体について述べられています。上告人はメモリーカードの提供をしていますが、一方で同一性保持権に対する侵害はその使用段階で初めて起こるとされます。したがって少なくとも表面的には「使用」をしていない上告人の責任をどのように認定するがが問題となります。

判決では「他人の使用による本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして,被上告人に対し,不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解する」と述べていますが、この理解としては(1)ユーザーによる直接侵害を認め、上告人に幇助者としての共同不法行為責任を認めた、(2)上告人を直接侵害行為者としてその不法行為責任を認めた、という二つの考え方があります。

本判決の文言、本事案の状況からすると(1)の考え方が素直な理解であるようにも思われます。しかしこのような事件において、ユーザーにも不法行為責任を問うことに疑問も感じます。

一方(2)の考え方によると上告人のみが侵害行為の主体となりますが、(2)のような解釈は少し困難であるようにも思われます。外見上侵害行為を行っていない者にまで行為主体性を認めるとして「カラオケ法理」((物理的な行為主体とは言い難い者を、①管理・主体性②営業上の利益の帰属に着目して、規範的に行為の主体であると認定する法理。客・ホステスに歌唱させていたカラオケ店が、演奏の主体と認められたクラブキャッツアイ事件に端を発する。がありますが、この法理を適用するには管理・支配性が必要となるところ、本件事実関係の下では上告人に管理・支配性を認めることが難しいからです。もっとも、クラブキャッツアイ事件は外見上侵害行為を行っている者の行為が違法でないことが前提としてあったので、本事案で(2)の解釈を採用するためにはユーザーの違法性について精査する必要がありそうです。

 

所感

今回の記事では「私的領域における改変」の問題といった論点や、そもそも第一審・控訴審でどのような判決だったのかについて触れることができませんでした。気になった方は是非調べてみると、面白い話が見つかると思います。

 

 

<参考文献等>(最終アクセスは全て2019年7月21日)

・「PS/と/ときめきメモリアル」"ゲーム裏技大辞典 Wiki", 2015年6月17日更新, <http://urawazagame.com/index.php?PS%2F%E3%81%A8%2F%E3%81%A8%E3%81%8D%E3%82%81%E3%81%8D%E3%83%A1%E3%83%A2%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%AB>

・愛知靖之・前田健・金子敏哉・青木大也(2018)「知的財産法」有斐閣

・「カラオケ法理」"社内弁護士森田の訴訟奮戦記ブログ", 2012年12月10日更新, <http://www.seirogan.co.jp/blog/2012/12/post-50.html>

・「三国志Ⅲ事件~映画の著作物に該当しないゲームソフトとは?」"著作権 侵害・違反を考える", 2012年2月6日更新, <https://ameblo.jp/tyosaku/entry-10452071997.html>

・「訴訟で振り返るファミコンの歴史 ~「パックマン事件」から「ときメモ事件」まで」"IT media news", 2004年1月28日更新, <https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0401/28/news001.html>

・「著作権判例紹介:ときめきメモリアル事件、三国志III事件」"名古屋国際特許業務法人", 2011年10月6日更新, <https://www.patent.gr.jp/news/shosai.html?id=5166156174e893bd091e8b>

・「ときめきメモリアル事件高裁判決」1999年10月25日更新, <http://www.ben.li/article/tokimemo.html>

・「「ときめきメモリアル」事件最高裁判決について」"一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会", 2001年2月13日更新, <http://www2.accsjp.or.jp/activities/2000/news03.php>

 

・第一審判決<http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/764/013764_hanrei.pdf>

控訴審判決<http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/721/013721_hanrei.pdf>

・上告審判決<http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/268/052268_hanrei.pdf>

*1:技術評論社から出版された本に付録としてついていたフロッピーディスクを使用することで、パソコンゲーム三国志Ⅲ」に登場するキャラクター(武将)の能力値を改変することが出来てしまうことに対して、三国志Ⅲの制作・販売元である「光栄(現:コーエー)」が著作権侵害を理由に技術評論社を訴えた事件

*2:名前入力画面で、あだ名を「こなみまん」と入力すると、能力値全てが573になる。

【判例】八坂神社祇園祭ポスター事件

ニコニコ動画で面白そうな企画をやるそうなので、参加してみようかと思います。テーマは「祭」「怪談」「戦争」ということで、「祭」に関連した八坂神社祇園祭ポスター事件を取り上げて、著作権についてのお話ができればなと。

https://www.nicovideo.jp/watch/sm35404959

そういう訳で今回は下調べ&勉強会ということで事案の概要と裁判所の判断について書いていきます。ざっくり言うと、祇園祭の写真を基に他人が水彩画を制作したことが著作権侵害に当たるかどうかが争われた事案になります。

 

○事案の概要

  • まず原告(以下X)は、趣味として京都の祇園祭を中心に写真撮影をする者でした。Xは、平成14年7月17日に祇園祭の写真を撮影し、その写真(以下本件写真)を表紙に掲載した「京乃七月」と題する祇園祭の写真集を、サンケイデザイン*1の製版印刷により発行し、八坂神社と関係者に無料で配布しました。
  • その後サンケイデザインは、八坂神社からの依頼を受けて平成17年6月ごろ、Xの許諾を得ずに、本件写真に依拠した水彩画(以下本件水彩画)を制作しました。
  • サンケイデザインの代表取締役(以下B)は、京都新聞の全面広告に祇園祭の広告として、平成15年7月17日及び平成16年7月17日に本件写真を、平成17年7月17日には本件水彩画を、それぞれBを広告主として掲載しました。
  • Bは、八坂神社から依頼を受けて、平成15年及び平成16年に本件写真を大きく拡大して掲載した八坂神社の祇園祭用の本件写真ポスターを、平成17年には本件水彩画を大きく掲載した八坂神社の祇園祭用の本件水彩画ポスターを、それぞれ印刷し制作して、被告八坂神社に納品しました。
  • そして八坂神社は,平成15年及び16年の各7月1日ごろ本件写真ポスターを、平成17年7月1日ごろ本件水彩画ポスターを、京都市内各所に貼付しました。なお、本件ポスターには、いずれも原告の氏名は表示されていませんでした。
  • 白川書院とその代表者(以下C)は、Bから本件写真のポジフィルムを借りて、平成15年7月1日発行の月刊京都7月号の祇園祭の特集記事に、原告の氏名を表示した上、見開き2頁にわたる大きさで本件写真を掲載し、これを発行しました。

以上が事案の概要で、Xは、サンケイデザイン・B・白川書院・C・八坂神社を相手取って、著作権侵害及び著作者人格権に基づく損害賠償請求をすることになりました。長くなってしまいましたが、関係を図にまとめると以下のようになります。

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○裁判所の判断

本訴訟の争点は以下の9つでした。

(1) 原告は,被告サンケイデザイン又は被告Bに対し,本件写真の使用許諾をしたか(争点1)。
(2) 原告の被告らに対する請求は権利の濫用か(争点2)。
(3) 本件水彩画の制作は,本件写真の翻案権を侵害するか(争点3)。
(4) 被告八坂神社は,共同して侵害行為を行った者に当たるか(争点4)。
(5) 原告は,被告八坂神社に対し,本件写真の使用許諾をしたか(争点5)。
(6) 被告八坂神社には,故意又は過失があるか(争点6)。
(7) 被告Cは,共同して侵害行為を行った者に当たるか(争点7)。
(8) 被告白川書院及び被告Cには,故意又は過失があるか(争点8)。
(9) 損害額はいくらか(争点9)。

今回注目したい争点3を除いては、争点1、5、6が比較的大きな争点となっているように思われます。

 争点1では、許諾が推認されるか否かが争われましたが、使用許諾は認められませんでした。争点5では、撮影許可との関係で争いになりましたが、使用許諾は認められませんでした。争点6では、八坂神社に注意義務を認め、過失を認定*2

それでは、その他の争点については判決文を読んでいただくとして、本件水彩画の制作が翻案権を侵害するか否かが争われた、争点3について見ていきましょう。

 

と思いましたが、長くなりそうなので続きはまた別の記事として書くことにします。

 

 

<参考文献等>(最終閲覧日は全て2019年7月17日)

・「一枚の写真が招いた「悲劇」」"企業法務戦士の雑感 ~Season2~", 2018年3月24日更新, <https://k-houmu-sensi2005.hatenablog.com/entry/20080324/1206295744>

・「八坂神社祇園祭ポスター事件」"写真著作権判例集", 2018年3月13日更新, <https://hanrei.jps.gr.jp/precedents/gion-festival/>

・「「八坂神社祇園祭ポスター」事件~著作権 損害賠償請求事件判決(知的財産裁判例集)~」"駒沢公園行政書士事務所日記", 2018年3月16日更新,  <http://ootsuka.livedoor.biz/archives/51489878.html>

・「料理マンガにおける写真トレースと著作権法」"情報法学日記 by 岡村久道2011年", 12月16日更新, <http://hougakunikki.air-nifty.com/hougakunikki/2011/12/post-54f6.html>

※画像は"いらすとや"<https://www.irasutoya.com/>より

*1:印刷及びデザイン企画等を目的とする株式会社

*2:「被告八坂神社は、重要文化財、著作物その他文化的所産を取り扱う立場にある者であって、もとより著作権に関する知識を有するものであるから」という理由づけがなされたが、その問題点についてはこちらのブログを見られたし<https://k-houmu-sensi2005.hatenablog.com/entry/20080324/1206295744>

【判例】金魚電話ボックス裁判

7月11日、金魚電話ボックス裁判の判決が下され、請求棄却、つまり著作権侵害が否定されるという結果になりました。
著作権法ではアイデアそれ自体は保護されないという点が判決に現れていて面白かったので、今日はこの事件について書いていこうと思います。

 

○事案の概要
2018年9月、奈良県大和郡山市の観光名所となっているオブジェ「金魚電話ボックス」に対して、福島県いわき市在住の現代美術家山本伸樹氏が「自身の作品に似ている」と抗議し、訴訟へと発展することとなりました。
山本氏の活動については、弁護士ドットコムニュースによると、「山本氏は1998年から電話ボックスを水槽にして金魚を泳がせる作品『メッセージ』を発表、ライフワークとしてきた」とのこと。
ことの発端は、2011年に京都造形大学の学生グループ「金魚部」が作成した「テレ金」という作品。山本氏によるとこの作品には「電話BOXを模した水槽を創作し、電話BOXの中に金魚が泳ぎ、受話器からのメッセージを見立てたエアーが出ているといった表現」が施されており、山元氏の作品「メッセージ」に酷似していたとのこと。このことについて山本氏は異議申し立てを行い、結果として「テレ金」は廃棄されることとなりました。
しかしその後、解体された「テレ金」の部材が、大和郡山の「金魚の会」に引き継がれ、2014年に地域活性化を目指す地元の団体により「金魚電話ボックス」として商店街に設置されました。
山元氏からの講義に対し、地元商店街は話し合いを進めていました。山本氏からは「『金魚電話ボックス』を『メッセージ』のデザインに修正し、山本氏の作品として展示してはどうか」という提案もありました。しかし商店街側は著作権侵害を否定。話し合いに決着がつかないまま、2018年4月、商店街は「著作権の問題」や「大勢の観光客が集まる苦情が来ていた」などの理由から作品を撤去しました。
そして2018年9月、自身の著作権を認めてもらうという決着を求めて、山元氏は提訴に至りました。

 

○裁判所の判断

争点1 原告作品の著作物性について

裁判所は山本氏の作品について「①公衆電話ボックス様の造形物を水槽に仕立て,その内部に公衆電話機を設置した状態で金魚を泳がせていること,②金魚の生育環境を維持するために,公衆電話機の受話器部分を利用して気泡を出す仕組みであること」の2点を基本的な特徴として挙げました。そして、①についてはアイデアである、②については「アイディアが決まればそれを実現するための方法の選択肢が限られることとなる」と判断して、この二つの点につき著作物性を否定しました。

しかし、裁判所は山本氏の作品が著作物であると判事します。

 他方,原告作品について,公衆電話ボックス様の造作物の色・形状,内部に設置された公衆電話機の種類・色・配置等の具体的な表現においては,作者独自の思想又は感情が表現されているということができ,創作性を認めることができるから,著作物に当たるものと認めることができる

つまり、公衆電話内で金魚を泳がせていることや受話器から気泡が出る点には著作物性はないが、電話ボックスの色や形状、公衆電話の種類・色・配置には著作物性があるとして、山本氏の作品は著作物であるとしました。

争点2 被告作品による原告作品の著作権侵害の有無について

「金魚電話ボックス」が山本氏の著作権侵害であるか否か、要は二つの作品が似ているか否か、という点について裁判所は以下のように判断しています。

ア 著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであり,既存の著作物に依拠して作成,創作された著作物が,思想,感情若しくはアイディア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,著作物の複製には当たらないものと解される。
イ 前記1で判示したところによれば,原告が同一性を主張する点(前記第2の3(2)アt7))は著作権法上の保護の及ばないアイディアに対する主張であるから,原告の同一性に関する上記主張はそもそも理由がない。

 かいつまんで言うと、争点1で挙げた①②の部分については、アイデア(若しくは実現するための方法の選択肢が限られることとなる表現)であるとして、似ていようが似ていまいが著作権侵害にはならないとしたわけですね。

一方、具体的表現内容(争点1でいう電話ボックスの色や形状、公衆電話の種類・色・配置)の同一性については以下のように判断しました。

なお,事案に鑑み,具体的表現内容について原告作品と被告作品との間に同一性が認められるか否かについて検討するに,前記(1)で指摘したとおり,原告作品と被告作品は,①造作物内部に二段の棚板が設置され,その上段に公衆電話機が設置されている点,②同受話器が水中に浮かんでいる点は共通している。しかしながら,①については,我が国の公衆電話ボックスでは,上段に公衆電話機,下段に電話帳等を据え置くため,二段の棚板が設置されているのが一般的であり,二段の棚板を設置してその上段に公衆電話機を設置するという表現は,公衆電話ボックス様の造作物を用いるという原告のアイディアに必然的に生じる表現であるから,この点について創作性が認められるものではない。また,②については,具体的表現内容は共通しているといえるものの,原告作品と被告作品の具体的表現としての共通点は②の点のみであり,この点を除いては相違しているのであって,被告作品から原告作品を直接感得することはできないから,原告作品と被告作品との同一性を認めることはできない。

 要するに、造作物内部に二段の棚板が設置され,その上段に公衆電話機が設置されている点(①)は、電話ボックスである以上必然であり、受話器が水中に浮かんでいる点(②)は共通するけど、これだけじゃあ同一性があるとは言えないよね、という話です。

 

○所感

長々と書いてしまいましたが本判決を一言でまとめるなら、「原告作品と被告オブジェとの共通部分がアイデアにすぎない(ので著作権侵害にならない)」ということになると思います。電話ボックスで金魚を泳がせること自体はアイデアの域を出ないだろうと感じますし、これを著作権法で保護してしまうと、自由な表現が過度に妨げられてしまうだろうということも予想できます。
とはいえ本判決にも疑問に感じる部分がありました。こちらのブログ(https://ipmainly.com/kingyo-saiban/)でも触れられていますが、受話器から空気が出ている点。これについては創作性を認めてもよかったんじゃないかなあと思う部分があります。というのも、裁判所ではこの点について以下のように言っています。

多数の金魚を公衆電話ボックスの大きさ及び形状の造作物内で泳がせるというアイディアを実現するには,水中に空気を注入することが必須となることは明らかであるところ,公衆電話ボックス内に通常存在する物から気泡を発生させようとすれば,もともと穴が開いている受話器から発生させるのが合理的かつ自然な発想である。すなわち,アイディアが決まればそれを実現するための方法の選択肢が限られることとなるから,この点について創作性を認めることはできない。

要は、アイデアそのものではなく表現ではあるが、選択の幅がないため創作性は認められない、と判断しているんです。けど本当に「公衆電話ボックス内に通常存在する物から気泡を発生させようとすれば,もともと穴が開いている受話器から発生させるのが合理的かつ自然な発想」なのでしょうか。硬貨投入口や釣銭取り出し口にも穴は空いていますし、そもそも新たに穴を設けないことが前提というのもしっくりこないように感じます(しかし一方で、受話器から気泡を発生させるのはとてもアーティスティックであるようにも…)。ちなみに、このことについて原告の主張を見てみると、このように述べています。

水槽内に空気を送り込むためには,ろ過装置やエアストーンを別途水槽底部に設置して空気を送り込むことが機能上最適であるし,他の類似作品については,受話器から空気は出ていない。このように,原告作品は相当の工夫が施され,原告の個性が発揮されているものであり,原告の思想又は感情が創作的に表現されたものであるʻから,著作物性が認められることに疑いの余地はない。

これを読むと、「実現するための方法の選択肢が限られる」とは言えないのでは?と思ってしまいます。どのように考えて原告の主張を退けたのか、裁判官にぜひ聞いてみたいところではあります。

 

さて今回の判決は、著作権はアイデア自体は保護しない、という原則によるものでした。この考え方は著作権法の大事なセオリーであるにも関わらず、小学校でも教えらえるような引用の要件などとは違って、積極的に勉強しようとしなければ知り得ないことだと思います。というわけで、機会があれば著作権法とアイデアについて整理した記事を書いてみたいと思います。(ちょっと検索すれば弁護士さんとかが書いた記事がすぐ見つかるけどね…)

 

 

<参考文献等>

facebook<https://www.facebook.com/nobuki.yamamoto.5>

・FNN PRIME NEWS「“金魚電話ボックス”は著作権侵害! “金魚の町”商店街を美術家が提訴」2018年9月19日<https://www.fnn.jp/posts/00364830HDK>

・おもそん「金魚電話ボックス撤去問題で露呈した日本人の著作権認識の甘さ」2018年4月4日<https://omoson.com/note/kingyobox/>

・主に知財。たまに問題解決「山本伸樹氏は裁判に勝てるのか【金魚電話ボックス著作権裁判】」2018年9月20日<https://ipmainly.com/kingyo-saiban/>

・栗原潔「金魚電話ボックスの著作権侵害が認められなかった理由(大幅訂正あり)」2019年7月11日<https://news.yahoo.co.jp/byline/kuriharakiyoshi/20190711-00133831/>

奈良地方裁判所判決<http://narapress.jp/message/2019-07-11_decision.pdf>

・弁護士ドットコムニュース「「金魚電話ボックス」に現代美術家が「著作権侵害」指摘するも、専門家は「侵害にはならない」」2018年4月11日<https://www.bengo4.com/c_23/n_7697/>

読売テレビニュース「著作権の侵害認めず 金魚電話ボックス裁判」2019年7月11日<https://www.ytv.co.jp/press/kansai/39254.html>

【判例】姪っ子と結婚することはできますか?~遺族厚生年金不支給処分取消請求事件~

今日は、叔父と姪の内縁関係を認め、姪に遺族厚生年金の支給を認めた判例を見ていこうと思います。


○事案の概要 (棚村, 2009)より引用

X女は、A男とは叔父姪の関係にあった。AはB女と離婚しC女をもうけたが、Cの出産前後から統合失調症に罹患し、Cの面倒を見れずに実家に帰ってしまった。そこで、両親と同居して農業も継いでいたAは、Bと協議離婚をすることで話し合いを行い、その間に父の提案により、Cの面倒を見てなついていたXとの結婚を決意し、昭和33年12月末ごろからX夫婦としての共同生活を開始した。AとBとの協議離婚は昭和35年4月に成立した。AとXとの結婚は親戚からも祝福され、町長の結婚の証明書が出されたり、Aを世帯主とする健康保険証に指名を記載され、源泉徴収票でも配偶者控除の対象とされていた。AとXとは、Aが平成12年に死亡するまで、約42年間にわたり夫婦としての共同生活が営まれ、両者の間には昭和35年D男、昭和37年にE女が生まれ、AはDEを認知している。そこで、Xは、Aの死亡後の平成13年に遺族厚生年金を申し立てたところ、不支給処分を受けたため、社会保険庁を相手として不支給処分を取り消すよう求める行政訴訟を提起した。



○前提となる法令など
厚生年金保険法 58条

遺族厚生年金は、被保険者又は被保険者であつた者が次の各号のいずれかに該当する場合に、その者の遺族に支給する。ただし、第一号又は第二号に該当する場合にあつては、死亡した者につき、死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間があり、かつ、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の三分の二に満たないときは、この限りでない。
→厚生年金の加入者が死亡した場合にその遺族に支給されるのが遺族厚生年金である。

厚生年金保険法 59条
遺族厚生年金を受けることができる遺族は、被保険者又は被保険者であつた者の配偶者、子、父母、孫又は祖父母(以下単に「配偶者」、「子」、「父母」、「孫」又は「祖父母」という。)であつて、被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時(失 踪そう の宣告を受けた被保険者であつた者にあつては、行方不明となつた当時。以下この条において同じ。)その者によつて生計を維持したものとする。ただし、妻以外の者にあつては、次に掲げる要件に該当した場合に限るものとする。
→遺族厚生年金を受給できるのは、死んだ被保険者の配偶者、子、父母、孫又は祖父母だけである。

厚生年金保険法 3条2項
この法律において、「配偶者」、「夫」及び「妻」には、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものとする。
→婚姻の届出をしていなくても、事実婚(内縁)であれば「配偶者」と認められる。

民法 734条1項
直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。ただし、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない。
→三親等(叔父と姪の関係がここに該当する)では婚姻できない。



○なにが争点となったのか
婚姻の届出をしていないX女とA男に、厚生年金保険法の3条2項を適用して遺族厚生年金を受給できるかどうかが争われました。
家系を支える稼ぎ手が亡くなった後、残された遺族の生活を支えるというのが遺族厚生年金の趣旨です。そのことは、亡くなった稼ぎ手と遺族との関係が法律婚であろうと事実婚であろうと変わりません。そこで厚生年金保険法3条2項では、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を「配偶者」として保護しています。したがって、届出を出して法律婚を成立させようと思えばできるがあえてしない・できないカップル(家族の反対がある場合や名字の変更を嫌う場合など)に内縁関係を認め、厚生年金保険法3条2項が適用されることは明らかでしょう。
しかし一方で内縁・事実婚の伝統的な理解は「社会観念上夫婦となる意思をもって夫婦共同生活を送っているが、婚姻の届出を欠くために、法律婚とは認められない男女の関係」となっています。一般常識としても大体同じ認識なはずです。そのような中で、近親婚の禁止という明文規定に反し、倫理的・優生学的にも問題のある三親等内での事実婚関係を認めるか否かが問題となることは想像に難くないことであります。


○裁判所の判断 最一小判平成19年3月8日より引用

(1) 法は,遺族厚生年金の支給を受けることができる遺族の範囲について,被保険者又は被保険者であった者(以下,併せて「被保険者等」という。)の配偶者等であって,被保険者等の死亡の当時その者によって生計を維持していたものとし(59条1項本文),上記配偶者について,「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」を含むものと規定している(3条2項)。法が,このように,遺族厚生年金の支給を受けることができる地位を内縁の配偶者にも認めることとしたのは,労働者の死亡について保険給付を行い,その遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するという法の目的にかんがみ,遺族厚生年金の受給権者である配偶者について,必ずしも民法上の配偶者の概念と同一のものとしなければならないものではなく,被保険者等との関係において,互いに協力して社会通念上夫婦としての共同生活を現実に営んでいた者にこれを支給することが,遺族厚生年金の社会保障的な性格や法の上記目的にも適合すると考えられたことによるものと解される。
他方,厚生年金保険制度が政府の管掌する公的年金制度であり(法1条,2条),被保険者及び事業主の意思にかかわりなく強制的に徴収される保険料に国庫負担を加えた財源によって賄われていること(法80条,82条)を考慮すると,民法の定める婚姻法秩序に反するような内縁関係にある者まで,一般的に遺族厚生年金の支給を受けることができる配偶者に当たると解することはできない。
(2) ところで,民法734条1項によって婚姻が禁止される近親者間の内縁関係は,時の経過ないし事情の変化によって婚姻障害事由が消滅ないし減退することがあり得ない性質のものである。しかも,上記近親者間で婚姻が禁止されるのは,社会倫理的配慮及び優生学的配慮という公益的要請を理由とするものであるから,上記近親者間における内縁関係は,一般的に反倫理性,反公益性の大きい関係というべきである。殊に,直系血族間,二親等の傍系血族間の内縁関係は,我が国の現在の婚姻法秩序又は社会通念を前提とする限り,反倫理性,反公益性が極めて大きいと考えられるのであって,いかにその当事者が社会通念上夫婦としての共同生活を営んでいたとしても,法3条2項によって保護される配偶者には当たらないものと解される。そして,三親等の傍系血族間の内縁関係も,このような反倫理性,反公益性という観点からみれば,基本的にはこれと変わりがないものというべきであ
る。
(3) もっとも,我が国では,かつて,農業後継者の確保等の要請から親族間の結婚が少なからず行われていたことは公知の事実であり,前記事実関係によれば,上告人の周囲でも,前記のような地域的特性から親族間の結婚が比較的多く行われるとともに,おじと姪との間の内縁も散見されたというのであって,そのような関係が地域社会や親族内において抵抗感なく受け容れられている例も存在したことがうかがわれるのである。このような社会的,時代的背景の下に形成された三親等の傍系血族間の内縁関係については,それが形成されるに至った経緯,周囲や地域社会の受け止め方,共同生活期間の長短,子の有無,夫婦生活の安定性等に照らし,反倫理性,反公益性が婚姻法秩序維持等の観点から問題とする必要がない程度に著しく低いと認められる場合には,上記近親者間における婚姻を禁止すべき公益的要請よりも遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するという法の目的を優先させるべき特段の事情があるものというべきである。したがって,このような事情が認められる場合,その内縁関係が民法により婚姻が禁止される近親者間におけるものであるという一事をもって遺族厚生年金の受給権を否定することは許されず,上記内縁関係の当事者は法3条2項にいう「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に該当すると解するのが相当である。


○所感
判決は「二親等の傍系血族間の内縁関係は、(略)反倫理性、反公益性が極めて大きい」ために「法3条2項によって保護される配偶者には当たらないものとされる」としたうえで、三親等の場合も基本的にはこれと変わりがないとしています。
しかしその上で、三親等の傍系血族間の内縁関係については、内縁関係が形成されるに至った経緯・周囲や地域社会の受け止め方・共同生活期間の長短・子の有無・夫婦生活の安定性等に照らし反倫理性・反公益性が婚姻法秩序維持等の観点から問題とする必要がない程度に著しく低い場合には、厚生年金保険法3条2項の「配偶者」として認められると判断しました。

本件について上記要件を見てみると、以下のように事実を当てはめたのではないかと思われます。
・内縁関係が形成されるに至った経緯
→姪は長期休暇を利用して、叔父と前妻との間の子の面倒を見ており、その子も姪になついてた。X姪は、栄養失調気味であり衣類の洗濯も十分に行われていない状態の子に同情しその子のために結婚を決意した。ちなみに親戚の中で姪が叔父と最も年齢が近かった。
・周囲や地域社会の受け止め方
→親戚に結婚を祝ってもらった。町長や叔父の上司にも結婚を認められていた。
・共同生活期間の長短
→42年間
・子の有無
→2人。叔父も認知している。
・夫婦生活の安定性
→夫婦は円満な家庭生活を送っており、姪は葬式のときまで妻としての役割を全うしていた。


内縁・事実婚の問題は、法律婚制度が定着しておらず社会習俗上の婚姻の儀式が重要と考えられていたことや、戦前の家制度のもとで結婚には戸主の同意が必要であったことに端を発するとされています。しかし一方で今日では、従前の制度に拘束されない家族の形として婚姻届を出さずに内縁関係に留まる、というパターンも多く耳にします。そんな時代において、この判例は私たちに新たなスキームを与えてくれているように思われます。
本判決では、地域・時代・社会的な背景を斟酌しながらも具体的な判断基準において文化・風俗などに直接触れることはしておらず、今日的な事実婚にも対応できる枠組みを示しているように感じられました。
しかし本事例は子の養育のために結婚を決心したという背景があり、裁判所の判断基準の中にも「子の有無」という項目があります。本件が遺族厚生年金の受給に関する事件であることを鑑みるに、これらは経済的な苦しさを考慮する要素になったようにも見受けられます。そうであるならば、裁判所のこの判断枠組みは、厚生年金等の福祉分野を扱う場合にのみ採用し得るものであるのかもしれません。



<参考文献>(最終アクセスは全て2019年7月6日)
・厚生年金・国民年金増額対策室「近親的内縁関係の場合、遺族厚生年金は支給されますか?」<http://www.office-onoduka.com/morau_izoku/mi0804.html>
最高裁判所第一小法廷判決平成19年3月8日
<http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/239/034239_hanrei.pdf>
・棚村政(2009)「近親婚的内縁配偶者と遺族年金ー最高裁平成19年判決の射程距離をめぐってー」
・博物士「■[edu] 大学院はてな :: 近親婚と遺族厚生年金(改)」<http://d.hatena.ne.jp/genesis/20060715/p1>
前田陽一・本山敦・浦野由紀子(2018)『民法Ⅳ親族・相続』有斐閣