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限界法律クラスタ

【判例】姪っ子と結婚することはできますか?~遺族厚生年金不支給処分取消請求事件~

今日は、叔父と姪の内縁関係を認め、姪に遺族厚生年金の支給を認めた判例を見ていこうと思います。


○事案の概要 (棚村, 2009)より引用

X女は、A男とは叔父姪の関係にあった。AはB女と離婚しC女をもうけたが、Cの出産前後から統合失調症に罹患し、Cの面倒を見れずに実家に帰ってしまった。そこで、両親と同居して農業も継いでいたAは、Bと協議離婚をすることで話し合いを行い、その間に父の提案により、Cの面倒を見てなついていたXとの結婚を決意し、昭和33年12月末ごろからX夫婦としての共同生活を開始した。AとBとの協議離婚は昭和35年4月に成立した。AとXとの結婚は親戚からも祝福され、町長の結婚の証明書が出されたり、Aを世帯主とする健康保険証に指名を記載され、源泉徴収票でも配偶者控除の対象とされていた。AとXとは、Aが平成12年に死亡するまで、約42年間にわたり夫婦としての共同生活が営まれ、両者の間には昭和35年D男、昭和37年にE女が生まれ、AはDEを認知している。そこで、Xは、Aの死亡後の平成13年に遺族厚生年金を申し立てたところ、不支給処分を受けたため、社会保険庁を相手として不支給処分を取り消すよう求める行政訴訟を提起した。



○前提となる法令など
厚生年金保険法 58条

遺族厚生年金は、被保険者又は被保険者であつた者が次の各号のいずれかに該当する場合に、その者の遺族に支給する。ただし、第一号又は第二号に該当する場合にあつては、死亡した者につき、死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間があり、かつ、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の三分の二に満たないときは、この限りでない。
→厚生年金の加入者が死亡した場合にその遺族に支給されるのが遺族厚生年金である。

厚生年金保険法 59条
遺族厚生年金を受けることができる遺族は、被保険者又は被保険者であつた者の配偶者、子、父母、孫又は祖父母(以下単に「配偶者」、「子」、「父母」、「孫」又は「祖父母」という。)であつて、被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時(失 踪そう の宣告を受けた被保険者であつた者にあつては、行方不明となつた当時。以下この条において同じ。)その者によつて生計を維持したものとする。ただし、妻以外の者にあつては、次に掲げる要件に該当した場合に限るものとする。
→遺族厚生年金を受給できるのは、死んだ被保険者の配偶者、子、父母、孫又は祖父母だけである。

厚生年金保険法 3条2項
この法律において、「配偶者」、「夫」及び「妻」には、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものとする。
→婚姻の届出をしていなくても、事実婚(内縁)であれば「配偶者」と認められる。

民法 734条1項
直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。ただし、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない。
→三親等(叔父と姪の関係がここに該当する)では婚姻できない。



○なにが争点となったのか
婚姻の届出をしていないX女とA男に、厚生年金保険法の3条2項を適用して遺族厚生年金を受給できるかどうかが争われました。
家系を支える稼ぎ手が亡くなった後、残された遺族の生活を支えるというのが遺族厚生年金の趣旨です。そのことは、亡くなった稼ぎ手と遺族との関係が法律婚であろうと事実婚であろうと変わりません。そこで厚生年金保険法3条2項では、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を「配偶者」として保護しています。したがって、届出を出して法律婚を成立させようと思えばできるがあえてしない・できないカップル(家族の反対がある場合や名字の変更を嫌う場合など)に内縁関係を認め、厚生年金保険法3条2項が適用されることは明らかでしょう。
しかし一方で内縁・事実婚の伝統的な理解は「社会観念上夫婦となる意思をもって夫婦共同生活を送っているが、婚姻の届出を欠くために、法律婚とは認められない男女の関係」となっています。一般常識としても大体同じ認識なはずです。そのような中で、近親婚の禁止という明文規定に反し、倫理的・優生学的にも問題のある三親等内での事実婚関係を認めるか否かが問題となることは想像に難くないことであります。


○裁判所の判断 最一小判平成19年3月8日より引用

(1) 法は,遺族厚生年金の支給を受けることができる遺族の範囲について,被保険者又は被保険者であった者(以下,併せて「被保険者等」という。)の配偶者等であって,被保険者等の死亡の当時その者によって生計を維持していたものとし(59条1項本文),上記配偶者について,「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」を含むものと規定している(3条2項)。法が,このように,遺族厚生年金の支給を受けることができる地位を内縁の配偶者にも認めることとしたのは,労働者の死亡について保険給付を行い,その遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するという法の目的にかんがみ,遺族厚生年金の受給権者である配偶者について,必ずしも民法上の配偶者の概念と同一のものとしなければならないものではなく,被保険者等との関係において,互いに協力して社会通念上夫婦としての共同生活を現実に営んでいた者にこれを支給することが,遺族厚生年金の社会保障的な性格や法の上記目的にも適合すると考えられたことによるものと解される。
他方,厚生年金保険制度が政府の管掌する公的年金制度であり(法1条,2条),被保険者及び事業主の意思にかかわりなく強制的に徴収される保険料に国庫負担を加えた財源によって賄われていること(法80条,82条)を考慮すると,民法の定める婚姻法秩序に反するような内縁関係にある者まで,一般的に遺族厚生年金の支給を受けることができる配偶者に当たると解することはできない。
(2) ところで,民法734条1項によって婚姻が禁止される近親者間の内縁関係は,時の経過ないし事情の変化によって婚姻障害事由が消滅ないし減退することがあり得ない性質のものである。しかも,上記近親者間で婚姻が禁止されるのは,社会倫理的配慮及び優生学的配慮という公益的要請を理由とするものであるから,上記近親者間における内縁関係は,一般的に反倫理性,反公益性の大きい関係というべきである。殊に,直系血族間,二親等の傍系血族間の内縁関係は,我が国の現在の婚姻法秩序又は社会通念を前提とする限り,反倫理性,反公益性が極めて大きいと考えられるのであって,いかにその当事者が社会通念上夫婦としての共同生活を営んでいたとしても,法3条2項によって保護される配偶者には当たらないものと解される。そして,三親等の傍系血族間の内縁関係も,このような反倫理性,反公益性という観点からみれば,基本的にはこれと変わりがないものというべきであ
る。
(3) もっとも,我が国では,かつて,農業後継者の確保等の要請から親族間の結婚が少なからず行われていたことは公知の事実であり,前記事実関係によれば,上告人の周囲でも,前記のような地域的特性から親族間の結婚が比較的多く行われるとともに,おじと姪との間の内縁も散見されたというのであって,そのような関係が地域社会や親族内において抵抗感なく受け容れられている例も存在したことがうかがわれるのである。このような社会的,時代的背景の下に形成された三親等の傍系血族間の内縁関係については,それが形成されるに至った経緯,周囲や地域社会の受け止め方,共同生活期間の長短,子の有無,夫婦生活の安定性等に照らし,反倫理性,反公益性が婚姻法秩序維持等の観点から問題とする必要がない程度に著しく低いと認められる場合には,上記近親者間における婚姻を禁止すべき公益的要請よりも遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するという法の目的を優先させるべき特段の事情があるものというべきである。したがって,このような事情が認められる場合,その内縁関係が民法により婚姻が禁止される近親者間におけるものであるという一事をもって遺族厚生年金の受給権を否定することは許されず,上記内縁関係の当事者は法3条2項にいう「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に該当すると解するのが相当である。


○所感
判決は「二親等の傍系血族間の内縁関係は、(略)反倫理性、反公益性が極めて大きい」ために「法3条2項によって保護される配偶者には当たらないものとされる」としたうえで、三親等の場合も基本的にはこれと変わりがないとしています。
しかしその上で、三親等の傍系血族間の内縁関係については、内縁関係が形成されるに至った経緯・周囲や地域社会の受け止め方・共同生活期間の長短・子の有無・夫婦生活の安定性等に照らし反倫理性・反公益性が婚姻法秩序維持等の観点から問題とする必要がない程度に著しく低い場合には、厚生年金保険法3条2項の「配偶者」として認められると判断しました。

本件について上記要件を見てみると、以下のように事実を当てはめたのではないかと思われます。
・内縁関係が形成されるに至った経緯
→姪は長期休暇を利用して、叔父と前妻との間の子の面倒を見ており、その子も姪になついてた。X姪は、栄養失調気味であり衣類の洗濯も十分に行われていない状態の子に同情しその子のために結婚を決意した。ちなみに親戚の中で姪が叔父と最も年齢が近かった。
・周囲や地域社会の受け止め方
→親戚に結婚を祝ってもらった。町長や叔父の上司にも結婚を認められていた。
・共同生活期間の長短
→42年間
・子の有無
→2人。叔父も認知している。
・夫婦生活の安定性
→夫婦は円満な家庭生活を送っており、姪は葬式のときまで妻としての役割を全うしていた。


内縁・事実婚の問題は、法律婚制度が定着しておらず社会習俗上の婚姻の儀式が重要と考えられていたことや、戦前の家制度のもとで結婚には戸主の同意が必要であったことに端を発するとされています。しかし一方で今日では、従前の制度に拘束されない家族の形として婚姻届を出さずに内縁関係に留まる、というパターンも多く耳にします。そんな時代において、この判例は私たちに新たなスキームを与えてくれているように思われます。
本判決では、地域・時代・社会的な背景を斟酌しながらも具体的な判断基準において文化・風俗などに直接触れることはしておらず、今日的な事実婚にも対応できる枠組みを示しているように感じられました。
しかし本事例は子の養育のために結婚を決心したという背景があり、裁判所の判断基準の中にも「子の有無」という項目があります。本件が遺族厚生年金の受給に関する事件であることを鑑みるに、これらは経済的な苦しさを考慮する要素になったようにも見受けられます。そうであるならば、裁判所のこの判断枠組みは、厚生年金等の福祉分野を扱う場合にのみ採用し得るものであるのかもしれません。



<参考文献>(最終アクセスは全て2019年7月6日)
・厚生年金・国民年金増額対策室「近親的内縁関係の場合、遺族厚生年金は支給されますか?」<http://www.office-onoduka.com/morau_izoku/mi0804.html>
最高裁判所第一小法廷判決平成19年3月8日
<http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/239/034239_hanrei.pdf>
・棚村政(2009)「近親婚的内縁配偶者と遺族年金ー最高裁平成19年判決の射程距離をめぐってー」
・博物士「■[edu] 大学院はてな :: 近親婚と遺族厚生年金(改)」<http://d.hatena.ne.jp/genesis/20060715/p1>
前田陽一・本山敦・浦野由紀子(2018)『民法Ⅳ親族・相続』有斐閣