うしとみし

限界法律クラスタ

【判例】ときめきメモリアル事件

著作権について勉強したことのある人の中には、この判例が一番印象に残っているという人もいるのではないでしょうか。無愛想な教科書の中に突如現れる「ときめきメモリアル」という字面のインパクト。ギャルゲープレイヤーは思わずニヤリとしたり、こそばゆい思いをしたりしたことでしょう。

今日はそんなときめきメモリアル事件についてです。この事件では、メモリーカードの改造によってゲームソフトのストーリーを改変することが、同一性保持権侵害にあたると判断されました。

 

事案の概要

  • ときめきメモリアル」(以下「本件ゲームソフト」)は、プレイヤーが架空の高校の生徒となり、設定された中からあこがれの女生徒を選択し、卒業式の当日に愛の告白を受けることを目指して、3年間の勉学や出来事等を通してそれにふさわしい能力を備えるための努力を積み重ねるという内容の恋愛シミュレーションゲームである。
  • 本件ゲームソフトでは、主人公について「体調」「理系」といった9種類の能力値と女生徒の主人公に対する評価を示す「ときめき度」などの3種類の値の初期値が設定されている。あらかじめ設定されたコマンドをプレイヤーが選択すると、パラメータが上下するように設定されており、そのパラメータの数値いかんにより女生徒から愛の告白を受けられるかが決定される。本件ゲームソフトでは、初期設定の主人公の能力値からスタートし、目標に向けて能力を向上させていくことが中核となるストーリーであり、その過程で主人公の能力値の達成度に応じて他の女生徒との出会いがあるという設定となっており、そのストーリーは一定の条件下に一度の範囲内で展開されるものである。
  • 被告は、平成7年12月頃から、「X―TERMINATOR PS版 第2号 ときメモスペシャル」という商品名のメモリーカード(以下「本件メモリーカード」)を輸入し、日本国内で販売した。
  • 本件メモリーカードのブロック1ないし11のデータを使用すると、入学直後の時点でパラメータのほとんどが極めて高い数値となり、入学当初から本来は登場し得ない女生徒が登場する。またブロック12または13のデータを使用すると、ゲームスタート時点が卒業間近の時点に飛び、その時点でストレス以外のすべての表パラメータの数値が本来ならばあり得ない高数値に置き換えられるなどされ、必ずあこがれの女生徒から愛の告白を受けることができる。

ときめきメモリアル」の説明については、よくある恋愛シミュレーションゲーム、といったところでしょうか。コマンドを選択して日々を過ごし、女性キャラとの好感度を上げていくという感じで。(私はラブプラス以外のギャルゲーをプレイしたことがないので合ってるか分かりませんが...)

被告が販売していたセーブデータを使うと、本来より早いタイミングで女性キャラが出てきたり、問答無用で狙いのキャラと付き合うことができたりするようです。データ弄り素人の意見としては、まあこちらもよくありそうな改造、といった印象です。

 

裁判所の判断

さて上記のような被告の行為に対し、原告は、被告が原告の同一性保持権を侵害しているとして損害賠償を請求しました。上告審判決は以下のようになります。

※上告人=被告(本件メモリーカードを販売した方)

 被上告人=原告(「ときめきメモリアル」の著作者人格権者)

本件ゲームソフトの影像は,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものとして,著作権法2条1項1号にいう著作物ということができるものであるところ,【要旨1】前記事実関係の下においては,本件メモリーカードの使用は,本件ゲームソフトを改変し,被上告人の有する同一性保持権を侵害するものと解するのが相当である。けだし,本件ゲームソフトにおけるパラメータは,それによって主人公の人物像を表現するものであり,その変化に応じてストーリーが展開されるものであるところ,本件メモリーカードの使用によって,本件ゲームソフトにおいて設定されたパラメータによって表現され
る主人公の人物像が改変されるとともに,その結果,本件ゲームソフトのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され,ストーリーの改変をもたらすことになるからである。

本件メモリーカードは,前記のとおり,その使用によって,本件ゲームソフトについて同一性保持権を侵害するものであるところ,前記認定事実によれば,上告人は,専ら本件ゲームソフトの改変のみを目的とする本件メモリーカードを輸入,販売し,多数の者が現実に本件メモリーカードを購入したものである。そうである以上,上告人は,現実に本件メモリーカードを使用する者がいることを予期してこれを流通に置いたものということができ,他方,前記事実によれば,本件メモリーカードを購入した者が現実にこれを使用したものと推認することができる。そうすると,本件メモリーカードの使用により本件ゲームソフトの同一性保持権が侵害されたものということができ,上告人の前記行為がなければ,本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害が生じることはなかったのである。したがって,【要旨2】専ら本件ゲームソフトの改変のみを目的とする本件メモリーカードを輸入,販売し,他人の使用を意図して流通に置いた上告人は,他人の使用による本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして,被上告人に対し,不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解するのが相当である。

以上のように、 上告人による同一性保持権侵害を認める判決が下されました。前半部分では、上告人の行為が同一性保持権侵害にあたるか否かについて判断しています。

まず注目したいのが「ゲームソフトの影像」という表現。本事案では、上告人はゲームのプログラムを改変している訳ではありませんし、キャラを裸にするといったような個々の映像に対する改変があった訳でもありません。したがって、プログラムや画像に対する同一性保持権侵害は認められ得ないことになります。しかし本判決では同一性保持権による保護範囲を「ゲームソフトの影像」とすることによって、本件ゲームソフトのゲーム展開やゲームの内容全体に対する侵害行為を認めています。

続いて着目するのは「本件ゲームソフトのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され,ストーリーの改変をもたらすことになるとの文章。これが示唆するのは、第三者によるゲームソフトの改変について、すべての場合に同一性保持権侵害が肯定されるわけではない、ということです。調査官解説でも「ゲームソフトのストーリーが一定の条件下に一定の範囲内で展開される物とは言えない場合や、被告が提供したメモリーカードを使用してもゲームソフトが予定しているストーリーの範囲内であり、表現態様が許容された一定の範囲内である場合などには、本判決とは異なる結論になる可能性があろう」と述べられています。この点につき、三国志3事件*1では、歴史シミュレーションゲームでありゲーム展開の許容される幅が広いと判断されたことで、同一性保持権侵害が否定されました。

なお「本来予定された範囲」について、本件ゲームソフトではユーザーによる入力操作があって初めてゲームが進行し、その進行の仕方もさまざまであるという特殊性に鑑み、「本来予定された範囲」を観念することが可能なのか、という疑問が呈されています。さらに、本件ゲームソフトにはいわゆる裏技*2が存在していたことから、「本来予定された範囲」を越えていないのではないか、という意見が投げかけられています。

 

さて、後半部分では、侵害行為の主体について述べられています。上告人はメモリーカードの提供をしていますが、一方で同一性保持権に対する侵害はその使用段階で初めて起こるとされます。したがって少なくとも表面的には「使用」をしていない上告人の責任をどのように認定するがが問題となります。

判決では「他人の使用による本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして,被上告人に対し,不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解する」と述べていますが、この理解としては(1)ユーザーによる直接侵害を認め、上告人に幇助者としての共同不法行為責任を認めた、(2)上告人を直接侵害行為者としてその不法行為責任を認めた、という二つの考え方があります。

本判決の文言、本事案の状況からすると(1)の考え方が素直な理解であるようにも思われます。しかしこのような事件において、ユーザーにも不法行為責任を問うことに疑問も感じます。

一方(2)の考え方によると上告人のみが侵害行為の主体となりますが、(2)のような解釈は少し困難であるようにも思われます。外見上侵害行為を行っていない者にまで行為主体性を認めるとして「カラオケ法理」((物理的な行為主体とは言い難い者を、①管理・主体性②営業上の利益の帰属に着目して、規範的に行為の主体であると認定する法理。客・ホステスに歌唱させていたカラオケ店が、演奏の主体と認められたクラブキャッツアイ事件に端を発する。がありますが、この法理を適用するには管理・支配性が必要となるところ、本件事実関係の下では上告人に管理・支配性を認めることが難しいからです。もっとも、クラブキャッツアイ事件は外見上侵害行為を行っている者の行為が違法でないことが前提としてあったので、本事案で(2)の解釈を採用するためにはユーザーの違法性について精査する必要がありそうです。

 

所感

今回の記事では「私的領域における改変」の問題といった論点や、そもそも第一審・控訴審でどのような判決だったのかについて触れることができませんでした。気になった方は是非調べてみると、面白い話が見つかると思います。

 

 

<参考文献等>(最終アクセスは全て2019年7月21日)

・「PS/と/ときめきメモリアル」"ゲーム裏技大辞典 Wiki", 2015年6月17日更新, <http://urawazagame.com/index.php?PS%2F%E3%81%A8%2F%E3%81%A8%E3%81%8D%E3%82%81%E3%81%8D%E3%83%A1%E3%83%A2%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%AB>

・愛知靖之・前田健・金子敏哉・青木大也(2018)「知的財産法」有斐閣

・「カラオケ法理」"社内弁護士森田の訴訟奮戦記ブログ", 2012年12月10日更新, <http://www.seirogan.co.jp/blog/2012/12/post-50.html>

・「三国志Ⅲ事件~映画の著作物に該当しないゲームソフトとは?」"著作権 侵害・違反を考える", 2012年2月6日更新, <https://ameblo.jp/tyosaku/entry-10452071997.html>

・「訴訟で振り返るファミコンの歴史 ~「パックマン事件」から「ときメモ事件」まで」"IT media news", 2004年1月28日更新, <https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0401/28/news001.html>

・「著作権判例紹介:ときめきメモリアル事件、三国志III事件」"名古屋国際特許業務法人", 2011年10月6日更新, <https://www.patent.gr.jp/news/shosai.html?id=5166156174e893bd091e8b>

・「ときめきメモリアル事件高裁判決」1999年10月25日更新, <http://www.ben.li/article/tokimemo.html>

・「「ときめきメモリアル」事件最高裁判決について」"一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会", 2001年2月13日更新, <http://www2.accsjp.or.jp/activities/2000/news03.php>

 

・第一審判決<http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/764/013764_hanrei.pdf>

控訴審判決<http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/721/013721_hanrei.pdf>

・上告審判決<http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/268/052268_hanrei.pdf>

*1:技術評論社から出版された本に付録としてついていたフロッピーディスクを使用することで、パソコンゲーム三国志Ⅲ」に登場するキャラクター(武将)の能力値を改変することが出来てしまうことに対して、三国志Ⅲの制作・販売元である「光栄(現:コーエー)」が著作権侵害を理由に技術評論社を訴えた事件

*2:名前入力画面で、あだ名を「こなみまん」と入力すると、能力値全てが573になる。